2025年12月
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承認への道、治験から保険適用までの長い旅路
一つの幹細胞治療が、研究室での発見から、誰もが保険診療で受けられるようになるまでには、想像以上に長く険しい旅路があります。そのプロセスの中核をなすのが「臨床試験(治験)」です。まず、基礎研究で有望な幹細胞の利用法が見つかると、次にマウスやサルなどの動物で効果と安全性を確認する「前臨床試験」が行われます。ここで良好な結果が得られて初めて、ヒトでの試験に進むことができます。治験は通常、3つのステップで進みます。第I相試験では、少数の患者さんを対象に、主に安全性を慎重に確認します。次に第II相試験で、もう少し多くの患者さんで、有効性の兆候や最適な細胞の投与量、副作用などを詳しく探ります。そして最終段階の第III相試験では、数百人規模の多くの患者さんにご協力いただき、既存の標準治療や偽薬(プラセボ)と比較して、本当に優れているのかを統計学的に証明します。この全プロセスを完了するには、何年も、時には10年以上の歳月と、数百億円規模の開発費用がかかります。再生医療の場合、細胞の培養や品質管理が非常に難しく、治験のハードルはさらに高くなります。この厳しい治験で得られた全ての科学的データをまとめ、国の審査機関である医薬品医療機器総合機構(PMDA)に承認申請を行います。PMDAの専門家たちが、そのデータを隅々まで厳しく審査し、有効性と安全性が十分に証明されていると判断して初めて、「再生医療等製品」として承認されます。この承認があって、ようやく中央社会保険医療協議会で価格が決められ、保険適用の治療となるのです。この長い旅路こそが、私たちが受ける医療の信頼性を担保しているのです。