学会の熱気が満ちる10月の京都にて
毎年10月、古都・京都は世界中から集まった研究者たちの熱気に包まれます。再生医療分野における最大級の学術集会が開催されるからです。私は、iPS細胞を用いた神経疾患の研究に携わる一人の研究者として、この学会に参加していました。会場の巨大なホールでは、ノーベル賞受賞者から若手のポスドクまで、様々な立場の科学者が最新の研究成果を発表し、活発な議論を交わしています。今年の最大の注目は、やはりiPS細胞技術の臨床応用に関するセッションでした。数年前までは基礎研究の段階だったパーキンソン病や脊髄損傷に対する細胞移植治療が、今や現実の患者さんを対象とした治験の段階に進み、その初期結果が報告されているのです。ある研究チームは、患者さん自身のiPS細胞から作製した神経細胞を脳に移植し、運動機能に改善が見られたというデータを、緊張した面持ちでスクリーンに映し出しました。会場からは、驚きと称賛のため息が漏れます。もちろん、課題はまだ山積みです。移植した細胞の長期的な安全性、より多くの患者に届けるためのコストダウン、そして生命倫理の問題。ポスターセッションの会場では、一枚のポスターを囲んで、国籍も専門も異なる研究者たちが夜遅くまで白熱した議論を戦わせています。成功したデータだけでなく、失敗した実験結果からも何かを学び取ろうとする真摯な姿勢がそこにありました。この学会で交わされる一つひとつの言葉やデータが、数年後、数十年後の医療を形作っていく。会場の外に出ると、10月の冷たく澄んだ夜気が火照った体を冷ましてくれます。しかし、私の心の中では、世界中の研究者たちと共有した情熱の炎が、未来の患者を救うという使命感とともに、より一層強く燃え上がっているのでした。